俺が代わりに死んでやればよかった
落馬のケガから長期離脱していた後藤浩輝騎手は競馬番組に出演していた。その終わりの頃にアナが後藤騎手に番組参加の感想を伺ったときの後藤騎手はこう返した。
「やはり自分はここにいるよりも馬に跨って馬上のほうがいいですね」
自殺に月並みな言葉で語るのは私は大嫌い。せめて感情的になる。
競馬から遠ざかって久しくなるが、後藤騎手は昔も今も一番好きな騎手である。なんで好きかというとその性格。性格としか言いたくない。いろいろ問題がある行動もあったが、それが彼の心持ちの良さであると信じ切っている。表だけしか見てこないで裏の顔を知ろうとしない薄情者に後藤騎手を好きになってほしくない。せいぜい馬鹿にしていろ。
私は後藤騎手がそんなことするとは全く疑っていない。今でも信じられない。誰か生き返らしてほしい。ならば俺が代わりに死んでやればよかった。後藤騎手が生き返るなら俺は死んでもいい。
今はそれしか言えない。めちゃくちゃだ。
死んでしまったものはしょうがない。それが認めたくない。こんな気持ちはいつ以来だろう。
騎手を止めたら己は死あるのみだったのか。
なんで騎手を止めたりするんだ。
なんで私の前からいなくなってしまったのか。
感受性が旺盛だったから、辛かったら実直に死を選ぶ度胸はあるだろう。後藤騎手は強いから。
私はもう競馬はしない。
後藤騎手がいない競馬はただの競馬だから。